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2006年07月18日

『ブラッド・プライス―血の召喚』 タニア・ハフ著 和邇桃子翻訳

タニア ハフ
発売日:2005/10
価格
あまなつShopあまなつで見る同じレイアウトで作成
「インタヴュー・ウイズ・ヴァンパイア」と思いつつ読み進めていたら、「女神転生」でしたというオチ。
……というのは、余りにも個人的な経験に基づきすぎる感想のようにも思いますが、仕方がない。
ヒューリック氏のディー判事シリーズ翻訳を手がける和邇桃子さんつながりで読んだ一冊です。

舞台がちょっと昔(といっても携帯電話の普及がまだでポケベル時代)の現代なので、なんとなく和邇さんにしては意外な話と思いました。中国がらみでないし、『アゴールニンズ』のようなクラシカルな香りがするものでもないし。
まあ、この第一印象は底の浅いものであると読み進めれば分かるのですが、なかなか読み進めるのが難しいものでしたよ。

そもそも現代物ということで、一人称的三人称で主人公のヴィッキー・ネルソンを筆頭に口語でぽんぽん行動し思考することすること。口語体の文章というのは翻訳というフィルターをかけるのが非常に難しいのです。
そのヴィッキー、元トロント警察殺人課刑事で、当時は女だてらの遣り手らしい直情的な性格とみえて、そのノリに当初ついていけませんでした。すごい怒りっぽいんだもん。彼女の現在の状況がまた、急な病による視力減退中で、転職したての私立探偵という、あんまり冷静とはいえない精神状態なのです。
そこに最初の殺人事件から絡んでくるのが、警察時代のパートナーのマイク・セルッチ。同僚なのやら恋人なのやらという微妙な関係で、口喧嘩ばっかりしているので内容が頭に入って来ないんですよ。
文章の主格となる人物も、時折ヴィッキー以外の人物(被害者とか、犯人とか)に移行しますが、みんな感情的に自己中心的な思考(欧米人的?と邪推したりも)で行動するものですから、ほんっとうに分かり難い!

バリー・ヒューガート氏の「鳥姫伝」シリーズも入り込むまで難しかったですけどねえ……

そんな状況を救ってくれるのが、もう一人の主人公ことヘンリー・フィッツロイ。
彼は作中で十分に語られる出自に加え、現在の職業は作家ということもあり、他の連中に比べると至極理解しやすい整った言葉を使ってくれます。
彼が出てくるまでは、タニア・ハフがそういう文体の持ち主なのかと恐々としてましたけど、これはたぶん演出なんだろうなあ。

ヘンリーは面白いキャラクターです。
ぶっちゃけ、彼が実はヴァンパイアなのですが、この部分は作品の比較的早い位置で明かされるので明かしても問題ないでしょう。
ヴァンパイアゆえ、若い容姿を保ったまま数百年の生を続けています。が、その彼の出自が歴史上に名を残す人物であるという深み。そこから産み出される彼の個性と、現代都市トロントで営むライフスタイルとのギャップがとても魅力的です。
小説家という設定も興味深い。
「他の職業にくらべて、小説家の仕事風景は絵にならない」と書いた人がいましたが、ヘンリーは結構仕事してます。それどころか、本文とは別書体で彼が執筆中の小説が封入されたりしているのが、枝葉ながら面白い効果です。で、またこの書いている小説ってのがねえ、 「ボディスひん剥き話」って(笑)
そして、この表現スタイルは小説の後半に違う物語りを語る手段に流用されていくのですが、狙っているのかそれとも深い意味はないのか不明ながら、楽しめました。

基本的な物語は、ヴァンパイアものというより、ヴァンパイアも関わるオカルト話というところでしょうか。
ヘンリーの出自と経験豊富な人生がシリーズに影響していくのは確実と思いつつ、以降の展開がどうなるのかは想像も付かないですね。
ヴィッキーとヘンリーの今後の関係も気になります。複数の意味で凸凹カップルだしなあ。身長も生活も性格も。

しかしながら、ヒューリック著作の全訳やポール・ドハティによる ロジャー・シャロット・シリーズの刊行と、和邇さんの関わる大きなお仕事が二つになってしまったので、こちらのシリーズは棚上げかなと思ってちょっと残念です。

それから、余談ながらamazon.co.jpにはレビューがひとつ付いています。
共感する部分も多いのですが、日本語としての成熟うんぬんについては如何なものかなあと思いました。
まあ、私は和邇さんのファンだとみられて当然なひいき発言と思われるでしょうが、『アゴールニンズ』でも触れたように、翻訳には素訳から超訳あるいは翻案までのレベルがあるわけなのですよ。
ぶっちゃけ、最初は読みにくいと感じていた和邇訳ですが……近頃いくつか読んだ「こなれた日本語にしちゃった邦訳外国語小説」はなんだかもの足りなく感じてしまうですよ。

この翻訳レベルというか、日本語こなし度って本の表紙に五段階ぐらいで表示しといてくれないかと昨今よく思います。
中国物で云うたら、平凡社系の駒田信二が2~3ぐらいで他の「中国怪奇物語」とかは4~5かな。
田中芳樹の「岳飛伝」は5なの? ちくまの「漢書」や「史記」は1とかでいいだろうか?
ま、中国物は漢文がある意味日本語ではあるので、「こなれてる・こなれてない」という言い方で表すのにちょっと語弊ありますねえ。

投稿者: 冰児