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2005年09月08日

毛利志生子「風の王国シリーズ」の地図

唐代に皇帝・李世民の娘として吐蕃へ嫁いだ文成公主を描いたのが、コバルト文庫から刊行されている、毛利志生子さんの「風の王国シリーズ」です。最近、最新刊の『風の王国 月神の爪』が発売されたのに加え、雑誌コバルトでは全員プレゼントのドラマCDに採用されたり、挿画の増田恵さん本人によるコミックが好評で今月から連載が開始するなど、なかなか盛り上がっています。
私としても気に入っている作品で、加えて旦那に勧めてみたら大層はまって読み出したということもあり、なんとなく家庭内ブームになっています。

そこで、前々から読みつつ気になっていた八世紀中国と吐蕃の歴史地図を簡単につくってみました。
基本的に、作者の毛利さんが作中で言及している記述を中心に纏めています。
というのは、史書によって驚くほど古い歴史が存在する中国と異なり、吐蕃の歴史はこの八世紀に、小説にも登場するソンツェン・ガンポや吐蕃文字開発者のサンボータにより夜明けを迎えたと言っても言い過ぎではないと思われるからです。もちろん、ソンツェン・ガンポ以前の歴史も伝説や言い伝えに散見していますが、シルクロードの楼蘭王国同様、外界から隔絶した面がありますので具体的な点に関しては不明も多いのですね。
毛利さんはそうした伝説や中国側からの記述、そして現在の研究成果を駆使しつつも、曖昧な部分をうまくフィクションで繋げ纏め上げていると思います。
また、地理や地勢というのは巨視的にみれば古代と現代でもさほど大きく変わってはいないでしょう。けれども、そこに棲んでいる人間や彼らが集う都市・集落というのは移動するわけで。同じ都市でも、時代によって寄る河川の岸辺どちら側に主体があったかが異なる例もあります。「風の王国」では吐蕃内外の各勢力が登場するものの、その具体的な場所や規模については当然詳細ではないです。ということで、「大体こんな感じ」というスタンスで作ってますのでその点はご容赦をお願いします。

いくつか解説。
緑の文字は、都市もしくはある程度人口が集まっていると思われる地域。中心となる街を限定したいところですが、無理なので大体の場所を円でマーキングしています。
濃い紫の文字と点で表した都市は現在も残る要衝の地ですが、名称に関しては八世紀のものではない場合もあります。ラサの位置、ちょっとあやしい。

翠蘭の降嫁旅程については、http://zhuling.cool.ne.jp/xiangbala/wcgz/pingjia.htm香巴拉)の記事「文成公主が辿った道」を参考にさせてもらいました。地図の右端、矢印の開始点が見切れている方角には長安があります。蘭州・西寧を経て、もし北に行けばその先はシルクロードへ向かう訳です。翠蘭の場合は西南へ向かい、この地図上では河流が途絶えていますが、黄河の源流であると言われる河源へ。ドニデラ(赤嶺)と呼ばれる山は、おそらく古代の中国で積石山と呼ばれた山系の一山かと思われます。
その後の行程は少し謎ですね。蜀の桟道ではないですが、古代の山岳地帯の道は河川沿いにルートを取ったと考えるのが常道です。昌都(チャムド)も現在、チベットへ入る要衝になっているらしいので、そちら経由の河道をとったかもしれません。

西吐蕃
ヤルルン…吐蕃の王都。ヤルンツァンポ江へ南から注ぐ支流沿いにある様子。
ニェル…2巻に登場するケーセクの領地。「ヤルルンの南にございますニェル(2巻p91)」とあるが、地図上では少しずらして配置。
コンポ…吐蕃内の特別な三国の一。王家の特別な縁戚。「大屈曲点」と呼ばれる、ヤルンツァンポ江が大きく南へ流れる辺り。
ツァン・プー…南をネパール、西をシャンシュンに接する要衝の地。

東吐蕃 
ツァシュー…リジムの治める吐蕃の副都的都市。東吐蕃十二の小王を押さえる意味合いを担う。
十二の小王…東吐蕃を構成する古来よりの王国。

●西吐蕃と東吐蕃の境界地域は不明ですが、普通に考えるとグルチュ河とヤルツァンポ河の分水嶺あたりではないでしょうか。

スムパ四国吐蕃の「臣下」と呼ばれる。山を挟んで、唐との国境に接する。具体的な場所不明。
ヤルモタン…スムパ四カ国連合最大の国で、盟主的存在。タシバールが治める。唐に近接。
ツェベル…スムパ四カ国連合
カムサ…スムパ四カ国連合。唐に近接。
ゲルモロン…スムパ四カ国連合の一。女王の谷と呼ばれる。干ばつで国を失ったダン一族がキムシューと呼ばれたヤルモタンの旧領に居住して出来た国。スムパの西南に位置。

●スムパは非常に気になる地域です。
作品中ではスムパのヤルモタンから松州を攻略したとのことですから、東は松州を境に唐と接し、北は積石山系に阻まれ、西は吐谷渾に隣するというところでしょうか。地図にしてみたら、思ったより中国側に近い気がしました。
四川の成都から北行して長安方面に出るルートは、武都の少し東(更に東にある漢中との間)を抜けていくような行程です。いわゆる三国志の時代に諸葛亮らが北征に用いたところです。
武都は、漢代に「テイ」と呼ばれるチベット系の民族が暮らす中心地でした。三国時代にはこの周辺も乱れ、諏訪緑「時の地平線」で描かれたような馬超まわりの羌族にはテイ族も含まれると思います。馬超に従っていたか反発して独自路線を取っていたかは謎ですが。馬超の勢力範囲がハッキリ分からないのが残念ですね。そして次の晋代にテイ族は武都に百頃テイ王仇池公国を建てます。この国は隋に滅ぼされることになりますが、どうもスムパとイメージが繋がる気がします。
「風の王国」の中でもスムパは唐と吐蕃の間に微妙な立場で存在していますが、想像以上に微妙ですね。
ちなみに、殷代や周代における古代の「羌」と漢以降の「羌」は少し区別して考えるのが無難です。漢以降に「羌」と出て来た場合は、「チベット系の民族」という大きな括りで捉えた方がいいのです。
それから、松州は当時かなりの辺境。唐から見たら西域とは別な意味での最果てという印象です。というか、吐蕃に攻められた時どれほど唐軍が在駐していたのかと少し疑問です。官庁とかもあったのかどうか。


●ベースの白地図はダヤンウルスhttp://www.netfam.co.jp/dayanulus/index.html)のものを利用させて頂きました。

チベットの地名その他については、毛利さんも多く参考している山口瑞鳳の著作を参照しています。『風の王国 月神の爪』の後書きによると『チベット・下』に八世紀吐蕃の地図があるのですが、地元の図書館には『チベット・上』しかありませんでした。
でも、ちべビア@TIJ blog別館さんに『チベット・下』の地図(http://blogs.yahoo.co.jp/ura_lungta/1922578.html)が転載されてましたので参考にさせて頂きました。私が作成した地図は、ここから「風の王国」に出て来た地名を抜き取って再構成しただけなので、興味のある方は直接こちらを見た方がいいと思います。

今回の地図には山脈などは記載しませんでしたが、山脈がどのように配され、その高低を縫って如何に河川が流れるかを頭に描くと、自ずと人がどう移動してどこに棲んだかが浮かんできます。歴史地図hは特にこういう見方が必要です。
地勢についてはThe Wind from TIBETにある地図(http://www1.u-netsurf.ne.jp/~TIBET/tabibito.htm)が分かり易いです。

後は手持ちの中国地図集を参考にしましたが、出来上がった地図を見るとそれほど生かされていない気がしますので特記するのは控えておきます。

微妙な内容なので、この記事にリンクや参照されるという方は一言かTB下さると助かります。もうちょっと補足した方がいいとか、ココが間違ってるとかご意見は大歓迎なので是非お願いします~♪

投稿者: 冰児

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» 「風の王国」シリーズ(毛利志生子)の地図 from Ciel Bleu
中国歴史小説の情報がたっぷり詰まったサイト小芙蓉城の冰児さんが、「風の王国」シリーズの地図を作ってらっしゃいました!(コチラ) 「風の王国」は、唐の時代に李世民... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2005年09月12日 16:16

» 風の王国 from カルメラ+キャラメル
コバルト文庫より出ている毛利生子先生のシリーズです。久々に一日一冊買いしました。舞台は7世紀、吐蕃王に嫁ぐ文成公主のお話なんですが、すんごく面白い!はやく続きが... [続きを読む]

トラックバック時刻: 2005年09月25日 02:07

コメント

冰児さん、こんにちは。お久しぶりです。
地図、すごいですねー!!
先日、まるで違う作品ですが、やっぱり地図を見ながら読むと全然違うんだろうなと思ったばかりなんです。今度から「風の王国」を読む時はぜひ参照させていただきますね。もし構わなければ、近いうちにうちのブログでもこちらの地図を紹介させていただきたいです♪

投稿者 四季 : 2005年09月11日 06:26

四季さん、ごぶさたしてますー。
サイトには日参して、「風の王国」レビューもよませていただいてます♪

「まるで違う作品」どのお話だったのでしょうか? キニナリマス…
今回の地図は周囲でもなかなか好評なのです。私はお勉強としての中国史に、地図を読むところから教わったんですね。
あとお茶の原産地としての四川&雲南にも興味があるので、結構イメージしながら読めていたんですけど。
ちゃんと地図にするとよく分かりますよね。

長安や黄河全体流域がありませんので、ユーラシアのどの辺りか掴みにくいと思うのです。
もうちょっと分かり易く、ヒマラヤと崑崙山系を加えて改変するつもりです。

投稿者 冰児 : 2005年09月12日 08:11